暮らしの中で、「この壁のここに、新しいコンセントがあったら便利なのに」「この場所に棚を取り付けるための、しっかりとした穴を開けたい」と感じる瞬間はありませんか。私たちの身の回りにある建物は、そのほとんどがコンクリートという、非常に頑丈な材料でつくられています。この頑丈さのおかげで、私たちは安全に暮らすことができますが、その一方で、一度完成した壁や床に、後から何かを通すための穴を開けるのは、とても大変な作業です。
特に、すでに人々が働き、暮らしているオフィスビルやマンション、あるいは静かな環境が何よりも大切な病院や学校などでは、大きな音や激しい振動を伴う工事は、できるだけ避けたいものです。周りの人に迷惑をかけてしまうのではないか、建物そのものを傷つけてしまうのではないか、と考えると、ためらってしまうのも当然です。
そんな、「困ったな」という気持ちに、そっと寄り添うようにして生まれたのが、今回お話しする「ダイヤモンドコア工事」という技術です。それは、大きな音や振動をほとんど出すことなく、まるで魔法のように、硬いコンクリートに静かで綺麗な道をつくりだすことができる、とても特別な工事なのです。
「削り取る」ダイヤモンドと、「砕き壊す」はつり
硬いコンクリートに穴を開ける、と聞いたとき、多くの方が思い浮かべるのは、工事現場でよく見かける、大きな音を立ててコンクリートを砕いていく光景かもしれません。しかし、ダイヤモンドコア工事は、それとはまったく違う考え方に基づいています。その違いを理解するために、昔からある「はつり工事」と比べてみましょう。
ダイヤモンドコア工事の仕組み
ダイヤモンドコア工事で使うのは、工業用につくられた非常に硬いダイヤモンドの粒が、先端にたくさん埋め込まれた、円筒状の特別な刃(ドリルビットと呼ばれます)です。これを専用の機械に取り付けて高速で回転させると、無数のダイヤモンドの刃が、硬いコンクリートを少しずつ、少しずつ「削り取って」いきます。ドーナツの型を生地に押し当てて、綺麗な円を抜き取る様子を想像していただくと、分かりやすいかもしれません。このとき、作業中は水を流し続けることで、摩擦による熱を冷やし、削ったときに出る粉が飛び散るのを防ぎます。だから、とても静かで、クリーンな作業ができるのです。
はつり工事の仕組み
一方、「はつり工事」は、先端の尖った工具を、機械の力でコンクリートに何度も強く打ち付けて、衝撃で「砕き壊す」ことによって穴を開けたり、構造物を壊したりする方法です。岩をハンマーで叩き割るようなイメージです。この方法は、大きな力を一点に集中させるため、どうしても「ガガガッ」という大きな音と、建物全体に響き渡るような激しい振動が発生してしまいます。また、砕かれたコンクリートの破片や粉塵(ふんじん)も、たくさん飛び散ることになります。
まるで違う、仕上がりと影響
この二つの方法では、仕上がりも大きく異なります。ダイヤモンドコア工事で開けた穴は、削り取っているため、まるで測ったように正確な円形で、その切り口はとても滑らかです。しかし、はつり工事で開けた穴は、砕いているため、形が不揃いになりがちで、周りがギザギザになってしまうこともあります。そして、もっと大切な違いは、建物への影響です。衝撃を与えないコア工事は、建物への負担がほとんどありません。しかし、はつり工事の強い衝撃は、目には見えなくても、建物の内部に細かなひび割れなどを生じさせてしまう可能性も、ゼロではないのです。
なぜ「ダイヤモンド」が使われるのでしょうか
「ダイヤモンド」と聞くと、多くの方はキラキラと輝く宝石を思い浮かべるでしょう。その美しく高価な宝石が、なぜ無骨なコンクリートに穴を開ける工事で使われているのか、不思議に思うかもしれません。実は、ダイヤモンドが持つ特別な性質こそが、この静かで綺麗な工事を可能にしているのです。
地球でいちばん「硬い」から
ダイヤモンドは、私たちが知る限り、この地球上で最も「硬い」とされる物質です。ものの硬さは、あるもので引っ掻いたときに、どちらに傷がつくかで決まります。ダイヤモンドは、どんなもので引っ掻いても傷一つつかず、逆にどんなものでも傷つけることができる、まさに硬さの王様です。鉄筋コンクリートが頑丈なのは、セメントや砂利だけでなく、その中に「鉄筋」という鋼の棒が入っているからです。この硬い鉄筋さえも、より硬いダイヤモンドの刃でなら、まるで木の鉛筆を削るように、スムーズに削り進んでいくことができるのです。この圧倒的な硬さがあるからこそ、難なく穴を開けることができる、というのが一番の理由です。
「熱に強い」という隠れた長所
硬いもの同士をこすり合わせると、摩擦によって、とても高い熱が発生します。ダイヤモンドコア工事でも、刃が高速で回転するため、その先端は非常に高温になります。もし普通の金属の刃であれば、高熱によって刃先がなまくらになったり、溶けてしまったりするでしょう。しかし、ダイヤモンドは熱にも非常に強い、という優れた性質を持っています。高温になってもその硬さがほとんど変わらないため、安定して削り続けることができるのです。作業中に水をかけて冷やすのは、ダイヤモンドの性能をさらに安定させ、その寿命を長持ちさせるための、大切な工夫でもあります。
小さな粒が大きな力に
もちろん、工事で使われているのは、指輪についているような大きな宝石ではありません。工業用として人工的につくられた、細かなダイヤモンドの粒(砥粒、とりゅうと呼ばれます)を、金属と混ぜ合わせて円筒状の刃の先端に焼き固めています。一つひとつのダイヤモンドの粒はとても小さいですが、その無数の小さな刃が、言わば「みんなで協力」してコンクリートに立ち向かうことで、大きな力を生み出し、効率よく削っていくことができるのです。この技術のおかげで、私たちはダイヤモンドの素晴らしい力を、比較的身近なものとして利用することができるようになりました。
どんな場所で、どのように役立っているの?
静かで、綺麗に、そして建物を傷つけずに穴を開けられるダイヤモンドコア工事は、その優れた特徴を活かして、私たちの身の回りの、実にさまざまな場面で活躍しています。普段はあまり意識することはありませんが、この技術がなければ実現できなかったことも、たくさんあるのです。
暮らしを支える「配管」の道をつくる
この工事が最も活躍する場面の一つが、やはり「配管」を通すための道づくりです。例えば、リビングに新しいエアコンを取り付けたいとき、室外機と室内機をつなぐための配管を通す穴が必要になります。また、キッチンの匂いを外に逃すための換気扇(ダクト)用の大きな穴や、新しくトイレを増設する場合の水道管や排水管を通すための穴など、私たちの暮らしを快適にするための改修工事には、なくてはならない存在です。すでに人が住んでいる家で、大きな音を立てずに作業ができるため、リフォームやリノベーションといった場面で、特に重宝されています。
見えない場所を「調べる」ためにも
ダイヤモンドコア工事の役割は、何かを通すための穴を開けるだけではありません。建物の「健康診断」をするときにも、その力が発揮されます。学校や橋、トンネルといった、多くの人が利用するコンクリートの建物は、完成してから長い年月が経つと、その強度がどのくらい保たれているかを調べる必要があります。その際に、壁や柱の内部の状態を詳しく知るため、ダイヤモンドコアで円筒状に一部をきれいに抜き取ります。この抜き取ったコンクリートのかたまり(コアサンプルと呼ばれます)を専門の機関で調べることで、建物の強度や劣化の進み具合などを、正確に把握することができるのです。
街の景色をつくる、意外な仕事
私たちの暮らしは、建物の中だけでなく、街のさまざまな設備によっても支えられています。例えば、道路に立っているガードレールや道路標識の支柱、あるいは夜道を照らす照明灯。これらをアスファルトやコンクリートの地面にしっかりと固定するための、深くて正確な円形の穴を開けるのにも、ダイヤモンドコア工事が使われています。他にも、空港の滑走路に埋め込まれた誘導灯の設置や、電線を地中に埋めるための工事など、私たちが安全に暮らすための街の景色づくりに、この技術は静かに貢献しているのです。
大切なのは、ただ「開ける」ことではない
ダイヤモンドコア工事は、とても優れた技術ですが、その力を正しく、そして安全に発揮するためには、ただ穴を開ける機械を操作するだけでなく、いくつかの非常に大切な準備と心配りが不可欠です。質の高い工事とは、こうした見えない部分の丁寧さによって支えられています。
穴を開ける前に「壁の中」を覗く
コンクリートの壁や床の中は、外から見ただけでは、どうなっているのか分かりません。その内部には、建物の骨組みである鉄筋が、網目のように張り巡らされています。また、電気の配線や、ガス管、水道管といった、暮らしに欠かせない大切なライフラインが埋まっていることもあります。もし、そうした場所を考えずに、むやみに穴を開けてしまったら、建物の強度を弱めてしまったり、電気をショートさせたり、水漏れを起こしたりと、大変な事態になりかねません。そのため、熟練した業者は、穴を開ける前に必ず、レントゲンのような特殊な機械(非破壊検査機、ひはかいけんさき、と呼ばれます)を使って、壁の中の様子を事前に「覗き見」します。そして、鉄筋や配管を避けた、最も安全な場所を正確に見つけ出してから、作業を始めるのです。
周りを汚さないための「心づかい」
ダイヤモンドコア工事では、粉塵の飛散を防ぎ、刃を冷やすために、水を使って作業を行います。そのため、作業中は、水とコンクリートの粉が混ざった、灰色の水が出てきます。この水が、周りのきれいな壁や床、お客様の大切な家具などを汚してしまわないように、作業場所の周りをビニールシートなどで、すき間なく覆う作業(これを養生、ようじょう、と言います)がとても重要になります。また、作業で出た水は、そのまま流してしまうのではなく、きちんと回収して適切に処理します。こうした一つひとつの丁寧な心づかいが、お客様の信頼につながり、工事全体の満足度を高めるのです。
専門の知識を持つ人にお願いする理由
この工事は、「コア屋さん」という専門の職人さんがいるほど、実はとても奥の深い世界です。建物の構造を理解し、非破壊検査の結果を正しく読み解き、現場の状況に合わせて最適な機械や刃を選び、丁寧な準備と後片付けまでを責任を持って行う。これらすべてを高いレベルでこなすには、やはり専門的な知識と豊富な経験が必要です。ただ「穴が開けばよい」のではなく、建物の未来と、お客様の安心までを考えられる、信頼できる専門家にお願いすることが、何よりも大切なのです。
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静かな工事が、未来の暮らしを豊かにする
硬いコンクリートの壁を前にして、「もう変えられない」と諦めていた、さまざまな想い。ダイヤモンドコア工事は、そんな固定観念に、静かに、そして綺麗に風穴を開けてくれる技術です。
それは、大きな音で何かを壊し、新しいものをつくる、という考え方とは少し違います。今ある大切な建物の価値をできるだけ損なうことなく、そっと寄り添うようにして、新しい機能や、より高い快適さを付け加えていく。そのための、とても優しく、そして賢い方法だと言えるかもしれません。
人々の「もっとこうだったらいいな」という願いを、建物をいたわりながら実現していく。その静かな作業の先には、私たちの暮らしが、より安全に、より便利に、そしてより豊かになっていく未来が広がっています。ダイヤモンドコア工事は、私たちの暮らしと建物の可能性を、これからも静かに、そして力強く広げ続けてくれることでしょう。